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Research研究紹介


知の融合

持続可能社会の実現に向けて
人工光合成技術の研究推進と実用化

〈 大阪市立大学・人工光合成研究センター 〉

天尾 豊センター所長

人工光合成研究とは、植物の光合成の仕組みを人工的に再現し、実用化する研究です。同研究において、日本はトップレベルを誇っており、大阪市立大学 人工光合成研究センターは、日本のみならず世界の人工光合成研究の拠点として知られています。2013年の開所以来、光合成の仕組みを人工的に再現し、環境にやさしい新エネルギーの創出と実用化を目指して基礎研究、応用研究に取り組んできた同センターの成果や今後の展開をはじめ、大阪公立大学の開学による展望などについて、天尾 豊センター所長にうかがいました。

無尽蔵の太陽光エネルギーを活用した画期的な技術

天尾先生が人工光合成研究に取り組んだきっかけや、人工光合成研究センターの開所について教えてください。

植物は、大気中の二酸化炭素と水、太陽などの光エネルギーを使って、酸素とグルコースを合成しています。私たちの身の回りにある植物は光合成を繰り返して生命を維持しているわけですが、水と光と二酸化炭素から有機物など別の物質が生まれるこの現象は、極めて不思議な反応といえます。私は小学校の理科の授業で光合成を学び、この不思議な反応に驚くとともに興味を持ちました。この時の驚きが、研究者への道を拓いてくれました。
人工光合成研究センターの取り組みを紹介する前に、人工光合成についてお話ししましょう。「人工光合成技術」は、世界中でさまざまな観点から研究が進められていますが、大きく2つの考え方があります。ひとつは、光合成の仕組みを学術的に解明して人工的に再現すること。もうひとつは、水と二酸化炭素に光を当てることで別の物質が生まれる反応に着目して、太陽光エネルギーで水を分解して水素を獲得したり、二酸化炭素をメタノールやメタンなどの燃料に変えるというものです。
現在、石油依存からの脱却・低炭素社会の実現は地球規模で取り組むべき社会課題となっています。人工光合成研究は、無尽蔵の太陽光エネルギーによって水と二酸化炭素から石油に依存しないクリーンなエネルギー創出するだけでなく、そのエネルギーの創出に二酸化炭素を再利用することから、炭素循環社会を実現させる仕組みを担う研究分野のひとつとして注目されています。
2013年、人工光合成研究センターは、それまで学内で培われてきた人工光合成に関する基礎研究を、実用化に向けてより発展させることを目的に開所しました。当時の所長は、「酵素発生光化学系Ⅱの1.9Å分解能における結晶構造」研究で英科学誌「Nature」に掲載されたことがきっかけとなり、米サイエンス誌の「2011年の科学10大成果(Breakthrough of the Year2011)」のひとつに選ばれ、2012年には朝日賞を受賞された神谷信夫特別招へい教授です。開所当初は、理学系分野の先生が中心となって「二酸化炭素からメタノールをつくる」にフォーカスして、人工光合成技術の実用化を目指して基礎研究と応用に取り組んでいました。そして2015年、私が所長に就任し、生成物を「メタノール」だけでなく「二酸化炭素の利用」にも範囲を広げました。そうすることで、より多様な企業との共同研究が可能になり、民間からの共同・受託研究の件数も受入額も毎年増加傾向にあります。

現在「生体触媒研究」「先端固体触媒科学研究」「触媒資源変換研究」「生体エネルギー論研究」の4つの基礎研究部門と、「蓄電デバイス開発」「水素エネルギー製造研究」「水素エネルギー利用研究」の3つの共同研究部門で展開しています。
設備としては、二酸化炭素からつくったギ酸を測定する「イオンクロマトグラフ」、正午の太陽光を再現する「ソーラーシミュレーター」、光触媒の性能を評価する「イオン注入用真空チャンバー」などがあり、これらを広く学外の研究者との共同研究に開放する事業として2016年4月、文部科学省共同利用・共同研究拠点「人工光合成研究拠点」に認定されました。

左から、イオンクロマトグラフ、ソーラーシミュレーター、イオン注入用真空チャンバー

人工光合成研究センターの特徴を教えてください。

「生体触媒研究」「先端固体触媒科学研究」「触媒資源変換研究」「生体エネルギー論研究」の4つの基礎研究があると言いましたが、固体触媒と生体触媒という触媒をキーワードとする全く異なる分野の基礎研究部門の連携と融合ができていることが大きな特徴として挙げられます。センター内では理学と工学の両方の観点から、意見交換や共同研究が活発に実施されています。
前述しましたが、石油依存からの脱却・低炭素社会の実現が喫緊の社会課題となっています。人工光合成研究センターでは、太陽光エネルギーと水と二酸化炭素から石油に代わるクリーンなエネルギーの創出や、排出された二酸化炭素を取り込んで循環する仕組みを確立すること、二酸化炭素からのものづくりを実現させるために、異なる分野の研究である固体触媒と生体触媒に加えて二酸化炭素を資源として有用物に変換する触媒の研究者が連携、研究の融合をしているのです。

クリーンなエネルギーというと、太陽光パネルが思い浮かびます

太陽光パネルは、太陽光パネルで光を集めて電気エネルギーに変える、再生可能エネルギーによる発電の仕組みの代表的なものです。そのほか、天然ガスを使って電気エネルギーに変える仕組みもありますが、これは天然ガスから水素を取り出して発電するため、もとをたどれば石油を使っているのと同じです。太陽光パネルによる発電も若干ですが全く二酸化炭素を発生しないわけではありません。これらの仕組みと人工光合成技術の大きな違いは、大気中の二酸化炭素を取り込み、排出した二酸化炭素を、再度取り込んでエネルギーに変える「炭素循環」の仕組みにあります。

人工光合成技術により「炭素循環」の仕組みが実現すれば、環境課題解決の大きな一歩となりますね。現在、どの程度、実現しているのでしょうか。

「植物の不思議な現象である光合成を人工的に再現して、クリーンなエネルギーの創出と炭素循環を実現」と文言にすると、とてもイメージが良く、社会からの期待値が高いのは肌で感じているのですが、研究はまだ道半ばといったところでしょうか。実用化となると今とは比べ物にならない規模のエネルギーを効率的に生成することが求められます。今後は現在研究している技術の実用化のためにより実学に近い化学工学の研究者と連携し、エネルギーの効率化を図り、より実用化につながる技術開発が必要だと考えています。

基礎研究から、実用化、そしてエネルギー問題の解決に向けて

現在、取り組んでいる研究について教えてください。

当初は本学にある「基礎研究」をいかに企業に転用するかという視点から共同研究に取り組んでいましたが、それでは本質的な企業が必要とする技術とのギャップが埋まらず、技術の実用化はもちろん企業の課題解決になかなか至りませんでした。しかし、企業との共同研究を重ねる中で「各企業の『用途』にあわせて学内の知見を提供する」というスタイルに変化していくことで、さまざまな共同研究が進むようになり、その研究内容や共同研究先の業種も広がっていきました。現在、自動車メーカーなどとの共同研究も増え「そんな発想があったのか」という驚きのある数多くの研究がセンター内で進行しています。
また、具体的な研究成果としては、2017年に人工光合成モジュールの原型が完成しました。太陽光パネルのような板状のものです。太陽光による光エネルギーで、二酸化炭素から水素の元になるギ酸を生成して貯蔵し、貯蔵したギ酸から生成した水素を活用して発電する技術を開発しました。色素・ビオローゲン・ギ酸脱水素酵素による太陽光駆動型二酸化炭素-ギ酸変換系を金属酸化物基板上にデバイス化することに成功しただけでなく、このデバイスをさらに単純化し金属酸化物として酸化チタンを用いることでギ酸の生成効率が従前の約6倍に向上しました。なお、現在は最適なビオローゲンを用いることで、従前の約12倍までなる技術を獲得しています。ギ酸を分解して水素とともに出る二酸化炭素は再回収し、活用します。ギ酸の分解と生成を繰り返すことで二酸化炭素が循環する仕組みで、循環の際、大気中の二酸化炭素を取り込むことで循環のたびに大気の二酸化炭素量を減少させます。太陽光パネルによる発電の場合、雨や曇りなど天候に左右されるデメリットがありますが、ギ酸はエネルギー密度が高く、貯蔵も難しくないため、太陽光パネルのデメリットを補うことができます。

この技術の実用化を目指して、住宅メーカーの飯田グループホールディングス株式会社との共同研究も進んでいます。2020年2月、沖縄の宮古島で、人工光合成技術を搭載した戸建住宅を実証するための実験棟が完成しました。コロナ禍で始動が遅れていますが、すでに見学依頼が多数、寄せられています(2020年9月取材時点)。
人工光合成技術を搭載した戸建住宅の実証試験では、ギ酸の生成に必要な装置の耐久性やギ酸の生成効率の最適化など、実用化に必要なデータの収集などさまざまな実験を進めていきます。例えば、5年後に開催される2025年大阪・関西万博に、人工光合成モジュールを搭載した住宅を展示するとしたら、その場で何らかの成果、例えば、「人工光合成モジュールでお風呂が沸かせます」といったようなことが発表できるのではないかと考えています。
もちろん、平行して基礎研究も進んでいます。太陽光エネルギーを利用し、二酸化炭素を有機分子に変換する人工光合成実現には、「触媒の開発・設計」が重要な技術のひとつとなります。最近では、ギ酸脱水素酵素が二酸化炭素を直接ギ酸に還元していることや、ギ酸分解に基づく水素生成のメカニズムを世界で初めて明らかにしました。これらの研究成果は人工光合成系実現のために大いに役立つことが評価され、Royal Society of Chemistryが発行する化学誌にも掲載されました。今後もさらに活性の高い触媒開発に取り組んでいきたいと思います。

大阪公立大学の開学について、天尾先生が考えておられることを今後の展開含めて教えてください。

2022年、大阪公立大学が開学した1年後、人工光合成研究センターが設立10年を迎えます。新体制から1年経った2023年、センター設立10年の研究成果は未知数です。また、炭素循環型社会はいつ頃、実現できているのでしょうか。その日が一日も早く来るように、大阪公立大学の研究者として、皆の英知を集結させたいと考えています。
具体的なこととして、今後は人工光合成技術を搭載した戸建住宅の実証実験に取り組みながら、「人工光合成研究の今」を見せていきたいと考えています。この取り組みは、大阪府立大学の次世代エネルギーの研究に取り組んでおられる先生や光触媒の先生方との融合で、かなり進むと期待しています。
また、大阪公立大学の開学で、企業からの「二酸化炭素で○○をつくりたい」というニーズに、今以上に応えられる環境が整うと思います。すでに進んでいる企業との共同研究の予算も年を追うごとに増資されており、さまざまな企業からの注目度も高まっています。人工光合成技術の実用化は簡単ではありませんが、大阪公立大学の開学は炭素循環型社会の実現につながると感じます。

 

Profileプロフィール

天尾 豊教授

大阪市立大学人工光合成研究センター所長

研究分野/生物機能、バイオプロセス、無機材料化学、エネルギー関連化学およびその関連分野

所属学協会/二酸化炭素利用、人工酵素、生体触媒、人工光合成、ソーラー燃料生成、酵素反応速度論、光補集分子、酸素反応など。