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Research研究紹介


知の融合

大阪公立大学で実現する、
新しい創薬科学の世界

〈 大阪府立大学 × 大阪市立大学 〉

藤井 郁雄教授 ・ 長﨑 健教授

江戸時代、堺の商人が道修町に薬種屋を開いたことがきっかけになり、「薬のまち」として知られるようになった大阪。2022年4月開学予定の大阪公立大学(以下新大学)の開学によって、「薬のまち 大阪」はどのように変化するのでしょうか。大阪府立大学研究推進本部URAの井上 忠弘氏がファシリテーターとなり、大阪府立大学でバイオ医薬の研究に取り組む藤井 郁雄教授と大阪市立大学でドラッグデリバリーシステム(以下、DDS)の研究に取り組む長﨑 健教授にお話をうかがいました。

低分子医薬品・高分子医薬品から中分子医薬品へ

― 今、必要なのは薬の潮流に対応する新しい研究と教育

井上氏/先生方にお話しいただく前に、私から創薬の現状をお話しいたします。医薬品に関しては、毎年、世界の医薬品を対象に売上高ランキングが発表されており、数年前からベスト10に抗体医薬が多くランクインするようになっています。10年~15年前と比較するとランキングは劇的に変化しており、この変化の要因として2つのポイントを挙げることができます。
1つは、疾患の研究が進んだことにより、それを治療するにはどの分子をどのように狙えば良いのかが高確率でわかるようになり、そのような働きが得意な抗体を医薬として活用する場面が増えたということがいえます。
2つめは、従来の低分子医薬品では狙えない標的分子があり、抗体医薬に代表されるサイエンスとテクノロジーを駆使した新しい医薬品が求められているという現状があることを意味しています。
このような中、次はどのような医薬品が主流になるのかということで注目を集めているのが中分子医薬品です。中分子医薬品とは、ペプチド医薬、核酸医薬のことで、今後はこれらの研究開発が加速するといわれています。
新しい医薬品の開発を推進するためには、薬の種をつくる研究が必要です。そうなると当然、既存の教育カリキュラムだけでなく、新しい分野の教育も必要になります。
まずは、ペプチド医薬の研究者である藤井先生と、目的とする細胞組織に効率良く、的確に薬を届けるドラッグデリバリーシステムの研究に取り組んでおられる長﨑先生に、新大学が開学することによる創薬分野の教育・研究についてお話しいただきたいと思います。

藤井教授/井上さんのお話しにあったように、薬のかたちは変わってきています。それに伴って、創薬の方法も変わってきているわけで、当然ながら、創薬の研究も教育も変わらなくてはなりません。詳しくお話しする前に、「薬学の学び」についてお話しします。薬学とは、「薬を使うこと」、「薬をつくること」を学ぶ分野です。薬学部が6年制になったことで、薬の使い方や社会福祉、患者への対応などを学ぶことが主軸になってきました。薬のかたちが変わり、低分子医薬から抗体医薬をはじめとしたバイオ医薬※が主流になっていく中、従来の教育では、すべての医薬品をカバーするのが難しいケースがあるのです。

バイオ医薬:遺伝子工学、細胞工学など高度で最先端の技術を用いて、大腸菌や哺乳類の細胞などで生産される医薬品。抗体医薬が代表的。抗体医薬は、低分子医薬品との対比で高分子医薬品とも呼ばれる。

このような中、理学や農学の分野で、タンパク質、バイオサイエンスに関する基礎研究の長い歴史を有する大阪府立大学と、高分子化学を基盤にしたDDS研究の歴史を有する大阪市立大学が融合することで、今までにない創薬研究と教育の拠点ができると考えています。

井上氏/2020年4月、大阪府立大学では創薬科学副専攻が始動しています。この副専攻は、どのような仕組みなのでしょうか。

藤井教授/創薬科学副専攻は創薬を学ぶことを目的に、農学、理学、工学分野の中から選抜された学生が、主専攻とは別に垣根を越えて専攻する仕組みになっています。初年度は160人もの学生が受講を希望し、予想を超えた関心の高さに驚いています。次年度は、その中から20名程度が選抜され、実際に研究室を回って最先端の創薬研究を学びます。

井上氏/農学、理学、工学を学ぶ学生が学部の垣根を越えて学ぶことで大きな成果が期待できますね。このあたりで、長﨑先生にDDSのお話しをうかがいたいと思います。

長﨑教授/DDSは、薬の力を効率良く発揮させるための方法論を指します。これには、副作用をできる限り少なくするということも含まれます。私たちは、薬の力を効率良く発揮させるため、薬が目的地に到達した時点で薬を放ち、本来の力を発揮させるための分子を創る研究に取り組み、その成果をDDSに使用しているのです。
私はもともと、核酸医薬の創薬に関する研究からスタートしています。研究では高分子を使う機会が多く、さまざまな機能を持った高分子を創ってきました。大阪市立大学の高分子に関する基礎研究には長い歴史があり、この基礎研究の力で新大学の創薬研究の発展に貢献できると考えています。

藤井教授/従来型の薬は、化合物を創って、飲んだり、注射したりするわけですが、バイオ医薬になると、どのように体内に運ぶのかということも重要な要素になってきます。長﨑先生のお話をうかがい、新大学では創薬の中でもバイオ医薬を中心に、深い教育、研究ができると感じます。

井上氏/創薬科学副専攻の始動も含めて、新大学は、従来の薬学の教育では育成が困難であったバイオ医薬の創薬にも対応できる人材を育てることができるということですね。

大阪府立大学、大阪市立大学の知の融合で広がる創薬の世界

井上氏/私は、研究者の研究活動の活性化や研究開発マネジメントの強化等を支えるURAとして、大学と企業との橋渡しになるような仕事をしています。ときには業界の現状などを学生に話す機会もあるのですが、学生は特に「自分の学びがどのように社会の役に立つのか」という出口に興味を持って話を聴いています。

藤井教授/研究ではどのような分野でも出口を意識するのはとても大事なことです。これまでは基礎研究で満足していましたが、今後は研究と社会のつながりを考えることができる、戦略的な思考を持った人材の育成にも力を入れたいと思っています。

長﨑教授/大阪は「薬のまち」の名の通り、製薬会社が多数あるということで、出口を意識しやすい環境があるというのも良いですね。また、大阪市立大学には医学部とその附属病院があるので、医学部との連携で、私たちが目指す創薬研究をさらに深めることができると思います。

藤井教授/医学部は、患者由来サンプルはもちろん、タンパク質、核酸を多数保有しています。医学部の研究者の方には、今後疾患の原因となるタンパク質を発見して、疾患との関わりを解き明かしていただきたいと思っています。

井上氏/新大学が果たす役割は大きく、期待も高まります。このあたりで、先端的創薬科学研究についてお話しいただきたいと思います。

藤井教授/現在、抗体医薬の研究開発が進み、売り上げも増えています。とはいえ、ご存じの通り、抗体医薬はパーフェクトではありません。例えば、医薬品の費用が高額なものもありますし、抗体分子が大きく、疾患関連分子が多数存在している細胞の中にはアプローチできないという欠点もあります。現在、この不利な点を改善するために、大きな抗体分子を小さなペプチドに置き換えるという新しい創薬モダリティ※をつくる研究に大阪府立大学では取り組んでいます。

モダリティ:構想した創薬コンセプトを実現するための薬の形態

抗体分子とペプチドの大きさの違いを例えると、抗体分子がマッコウクジラであるなら、ペプチドはマグロといったところです。マッコウクジラをマグロほどのサイズに小さくするための研究に取り組んでいるわけですが、ここで期待できる分子として、私たちが開発した分子「HLHペプチド」が注目されています。「HLHペプチド」は、ヘリックス・ループ・ヘリックス構造をもつ安定なペプチドです。

抗体分子とペプチドの大きさ比較

「HLHペプチド」は、安定な2次元、3次元構造を持つペプチドをつくる研究に取り組む中で辿り着いた構造です。ペプチドにこの構造を施すことで、抗体の特性を維持しながら、「血中で不安定」というペプチドの弱点を改善することができます。小さくて、抗体と同じような機能を持っており、私たちの「HLHペプチド」の開発は、世界初として注目されると同時に、製薬会社からの期待も高まっています。この技術を使って、新しい薬をつくりたいと考えています。

長﨑教授/大阪市立大学の先端的創薬科学を紹介します。工学研究科では、3つの教育研究センターがあり、その中のひとつに医工・生命工学教育研究センターがあります。そこで「ホウ素中性子捕捉療法(以下・BNCT)のための新規ホウ素デリバリーシステムの開発」というプロジェクトを推進しています。
BNCTは、がん治療のひとつで、ホウ素と放射線の一種である中性子を使った化学療法と放射線治療の併用療法です。大阪が世界をリードしている治療法ですが、これまでは、原子炉のウランが核分裂をする際に生じた中性子を使用していました。

原子炉を医療現場で使用することは難しいため、広く普及させることができずにいましたが、住友重機械工業株式会社が、電力で加速したプロトンをベリリウム(原子)に衝突させた際に生じる中性子をBNCTに利用する方法の開発に成功し、病院内への中性子源設置が可能になったことで期待が高まっています。
BNCTに関してさらにお話しいたしますと、大阪府立大学BNCT研究センターのホウ素薬剤化学研究室に所属する切畑光統先生と、ステラファーマ株式会社が、BNCT用薬剤「ステボロニン®」を開発し、2020年3月、世界に先駆けて国内で承認され、5月には実際に治療用に販売されています。
このような中、私たちの研究に使っているのは「大きな抗体」のため、藤井先生がおっしゃる「小さな抗体」を使えば、より効率的なホウ素デリバリーシステムが構築できると確信しています。BNCTを発展させるためにも、新大学の開学に期待が高まります。

藤井教授/すでに、BNCTに「HLHペプチド」を活用することを目的とした研究にも取り組んでいます。新大学の開学により、この分野の研究が加速し、新しい医薬品の誕生につながると考えています。

新大学が「薬のまち 大阪」の活性化と進化に貢献

井上氏/今、創薬を語る際、新型コロナウイルスの話題を避けることはできません。ワクチンや治療薬に関してお話を聞かせてください。

藤井教授/今、世界中で、新型コロナウイルスのワクチンや治療薬に関する研究開発を進めています。大阪府立大学も同様で、獣医学専攻では、新型コロナウイルスを扱える施設「BSL3※」で、新型コロナウイルス感染防止薬の研究を進めています。

BSL3:BSL3の遺伝子組換え実験や病原体そのものを用いた実験を安全に行うための施設。

長﨑教授/大阪府立大学には「BSL3」施設があるのですね。私たちの研究にも使わせていただければと思います。

藤井教授/もちろんです!情報交換の場としても活用しましょう。

長﨑教授/ワクチンにはタンパク質のほか核酸化合物を使うことが多いですし、DDSの技術も不可欠です。大阪府立大学と大阪市立大学にはこれらの分野に関連する多くの研究者が在籍しています。これまで両大学間ではバイオメディカルフォーラムで情報交換をしてきましたが、これからも活発に交流を行って社会課題を解決していきたいですね。

井上氏/新型コロナウイルスもそうですが、パンデミックは人畜共通の感染症が多いですね。大阪市立大学には医学部があり、大阪府立大学には獣医学部があります。新大学はこれら2つの学部を有する関西初の大学となります。感染症の分野で大きな貢献が期待されますね。

藤井教授/創薬は、病気のもとになっている原因タンパク質を発見することが一番目です。二番目は、原因タンパク質を標的として作用を止める化学物質やタンパク質など薬の種を見つけること。三番目は、適切に設計をして目的部位に送ること。四番目は、安全性を見極めながら適切な投与量と投与方法を探るための前臨床試験をするということで、大阪府立大学は、この4つのポイントすべてを網羅しています。他大学と比べても特徴的なこの基礎研究の力で、創薬に特化した教育、研究をしたいと思います。創薬科学副専攻は、この考えをかたちにしたものですが、今後は大学院の創設も目指したいと考えています。そして、新大学にしかできない唯一の教育、研究の拠点にしたいと思います。
また、大阪府立大学、大阪市立大学には、創薬技術、バイオ医薬に関する研究シーズがたくさんあります。新大学開学を機に、新薬開発に向けて大々的に打ち出していきます。

長﨑教授/新大学の開学で、2つの大学の創薬、バイオ医薬研究が大いに発展し、「薬のまち 大阪」のさらなる活性化につながると確信しています。

井上氏/新大学の開学で、大阪は「薬のまち」から「創薬科学の大阪」へと発展すると同時に、先端医療都市実現のきっかけとなりそうですね。大いに期待したいと思います。

Profileプロフィール

藤井 郁雄教授

大阪府立大学 大学院理学系研究科 生物科学専攻 教授、特命副学長(国際交流渉外担当)
大阪府立大学 ケミカルバイオロジー研究所 所長

研究分野/ライフサイエンス・薬系化学、創薬科学、ケミカルバイオロジー、構造生物化学、タンパク質化学
ナノテク・材料・生体科学

所属学協会/日本薬学会、日本化学会、日本生化学会、日本ペプチド学会、アメリカ化学会など


長﨑 健教授

大阪市立大学 大学院工学研究科 化学生物系専攻 教授、工学研究科長・工学部長

研究分野/生体機能工学、ライフサイエンス(生体材料学・生体医工学)、Medical Bioengineering

所属学協会/高分子学会、日本DDS学会、日本バイオマテリアル学会、遺伝子・デリバリー研究会、ホストーゲスト・超分子化学研究会


井上 忠弘

大阪府立大学 研究推進本部 URAセンター リサーチ・アドミニストレーター